「知能」に対する興味は古くから人間を捉えて離さなしませんでした.古くは哲学の分野で人間への興味が見られ,その一つとして人間のもつ「知能」とは何か,が考えられています.この命題は古くからありますが,"考えられていた"と過去形にできるような答えの見つかった命題ではなく,未だ考え続けられていながら答えの見つけられない問題です.
このような「知能」への興味は伝奇・神話・フィクションへも影響を及ぼし,「知能をもった何か」に関する記述が多く見られます.もっとも古いものは,ホメロスの『イリアス』に登場する黄金製の少女・オートマタ(紀元前8世紀頃)や青銅の巨人ターロス(紀元前3世紀頃)などがあり,現在の知能ロボットの原型ともいえます.
このように,「思考」で知能を解き明かそう,という流れとは別に,医学の分野でも知能の解明が試みられています.それは,知能を発生させる脳の構造を明らかにし,脳の持つ機能を解析し,それによって人間が「知能」と考える現象はどのように発生するのかを解明しようという試みともいえます.
これらは,まず人間にある「知能」があり,それを解明したい,という欲求からスタートしています.一方,工学における「知能」への係わり方はちょっと変わっているといえます.個々の研究者のスタート地点としては「知能」への興味,もっといえば小説や漫画が示してくれた「知能ロボット」への興味が在った場合も少なくはないのですが,工学という分野が示すスタート地点は,"より便利な機械をつくるための道具・方法のひとつとして知能の搭載"があったといえます.これは工学(Engineering)が,人間の利益を産む技術の開発,という役割を持っているためです.
それぞれの分野では,それぞれの分野特有の役割があり,それぞれの分野特有の興味や目標がうまれます.それが現在,「知能」という興味・目標によって,それぞれ異なった視点を持つ分野が集まり協力しあえる状況になってきています.