「知能的な振る舞い」を私達は,「身体による知能の表現」と捉えます.よって自転車にのったり運動をしたりという動きはもちろんのこと,考え込んだり本を読んだりという動きの少ないものも「知能的な振る舞い」と捉えます.特に後者の場合,そのような動きを通して見ることのできる脳みその内部の情報処理メカニズムを「知能的な振る舞い」と考えることが多いと思います. そこで私達の研究室では,「動き」に注目し,「動き」をつくり出すメカニズムまで含めて「知能的な振る舞い」と考え,実現していきたいと思っています. ここで,「動き」について考えてみます. コップをとる動き,ドアをあける動き,お手玉をする動き,様々な動きがあります.人間が行っている動きを正確に記録し,人間と同じ機構をもつロボットで再現してやるとどうなるでしょう?ちゃんと「動く」のでしょうか?もちろんロボットの体は「動き」ます.しかし,コップをとる動き,ドアをあける動き,お手玉をする動き,となるのでしょうか?周りの状況までも人間が動いた時と完全に同じにすれば,意味のある動きとなるかもしれません.しかし多くは,コップをつかみそこなった,あける途中でドアが引っかかった,お手玉がどっかに飛んでいった,といった失敗の動きになると思います. 人間は動くときに,「まわりの環境」に合わせて動くことができます.置いてあるコップに合わせて手の位置を修正し,握力も調整し,にぎることができます.むしろ人間にとって,「まわりの環境と全く無関係に動く」ことは難しいものです.一方,機械・ロボットにとって後者の方が簡単であり,「まわりの環境」に合わせて動くことは大変難しいことです.なぜなら,「まわりの環境」は,「未知なる環境」だからです.ここで言う「未知なる環境」とは,見たことも聞いたこともない環境のことではありません.過去になんども同じような環境・状況を経験しており,沢山の予備知識を持っているけれども,全く同じ環境・状況ではない故に,未知なる要素がわずかでも入っている,そんな環境です.昨日コップをつかんだ環境とは,今日は場所が違う・重さが違う・コップが違う.恐らく一つ一つの要素は,数mm,数mg,数mlくらいの違いかもしれませんが,沢山の数ミリ違う要素が存在する環境は過去のどの環境とも違うのです.私達の囲まれている実環境は,無限の環境パターンを許容するくらい,複雑なのです. 人間は,このよく馴染んだ未知の日常環境の中で動きを創造し続けて生きています.そのメカニズムは何か?それを考え,創り,ロボットを用いて動かす.これが現在,私達が研究している事柄です. #ref(動作することの難しさ.png,center,zoom,50%) #ref(動作することの難しさ.png,center,zoom,75%)